提供:STSフォーラム

「科学技術と人類の未来に関する国際フォーラム」第17回年次総会開催 ポストコロナ時代 重要性増す科学技術

開会式に登壇したSTSフォーラム理事長 尾身 幸次氏

 科学技術と人類の未来に関する国際フォーラム「STS forum(Science and Technology in Society forum)」(尾身幸次理事長)の第17回年次総会が10月3〜6日、国立京都国際会館をベースにオンラインで開催された。約100カ国・地域と20の国際機関からノーベル賞受賞者らを含む多分野の科学者、政・財界人らおよそ1500人が参加。エネルギーと環境、人工知能(AI)と社会など多様なテーマで討議されたが、今回は全15セッション全てで新型コロナウイルス(COVID-19)パンデミックへの言及がある時代を反映した総会となった。各セッションでは単に現状を語るだけではなく、得られた知見・教訓や次のパンデミックへの備えなど、未来志向の活発な議論が展開された。

開会式に登壇したSTSフォーラム理事長
尾身 幸次氏

OPENING

知恵のダイバーシティが集い意見交換

フォーラム冒頭で開会を宣言した安倍晋三STSフォーラム名誉会長(前内閣総理大臣)は、「今後のポストコロナ時代には、科学技術の役割はこれまで以上に重要になってくる。『科学技術の光と影』の光を伸ばし、影をコントロールするというSTSの考え方にのっとり、この場で行われる議論や対話が科学技術のさらなる飛躍的な発展につながり、人類の明るい未来への道筋を切り開くことを願っている」とフォーラムへの期待を英語でスピーチした。

また、菅義偉内閣総理大臣からも特別メッセージが寄せられ尾身朝子衆議院議員が代読した。菅総理は「新型コロナウイルス対策をはじめ、近年人類にとって共通の対応を求められる課題がますます増加している」とし、デジタル化の加速に言及するとともに、「STSフォーラムが国際公共財として、知恵の共有の場として、ますます発展していくことを心から期待する」とフォーラムの意義を強調した。

フォト:安倍 晋三氏

STSフォーラム名誉会長
前内閣総理大臣 安倍 晋三氏

フォト:菅 義偉氏(左マド:尾身朝子氏)

開会式に特別メッセージを寄せた内閣総理大臣 菅 義偉氏
出典: 首相官邸ホームページ(https://www.kantei.go.jp/)
(左マド メッセージを代読した衆議院議員 尾身朝子氏)


続いて行われた「人類の未来のための科学技術」と題されたオープニングセッションでは、ロシア副首相のドミトリー・チェルニシェンコ氏がロシアにおけるデジタル・トランスフォーメーション(DX)の取り組みを紹介し、「IT(情報技術)を学ぶ学生を2年後には現在の3倍に増やす計画だ」と話した。メキシコのマルセロ・エブラル外務大臣は、「科学技術イノベーション(STI)は喫緊の課題。カリブ海諸国でも今後はプライオリティーの高い課題になる」と同地域での科学振興への意欲を語った。

また、欧州委員会(EC)委員のマリア・ガブリエル氏は、「COVID-19への対応では、イノベーションの重要性が改めて明らかになった。オープンな議論を行い、人々のネットワークにより、科学を通じて共通の解決策を見つけていくことが求められている」と話した。

ビデオメッセージを寄せた米国科学技術政策局のケルビン・ドログマイヤー局長は、日米間の科学技術協力協定などに言及し、両国間で生まれた多分野での技術開発がグローバルに生かされてきたと指摘。「科学技術はグローバルエンタープライズであり、STSフォーラムは自由に意見交換できる非常に重要な場だ。創造力とモチベーションがあれば、オンラインでも有意義な議論ができる」と伝えた。

次いで、トヨタ自動車の内山田竹志会長は、「COVID-19パンデミックに対する取り組みは人類全てに関わっており、世界中の人々の連帯が欠かせない。パンデミックをリスクとしてだけではなく科学技術のイノベーションやデジタル技術の社会実装の機会として捉え、現在を転換点とすることが求められている。脱炭素にむけた持続可能なエネルギーの実現も含め、あらゆる国・地域が運命共同体として活動していくことがこれまで以上に重要だ」と述べた。

開会式の最後に、尾身幸次STSフォーラム理事長は「人類の未来のため、科学技術の光と影に対処するために、STSフォーラムがますます重要性を増すことを願っている」と同フォーラムの未来にも期待を寄せた。

フォト:オープニングセッション登壇者

左から、ロシア副首相 ドミトリー・チェルニシェンコ氏、メキシコ外務大臣 マルセロ・ルイス・エブラル・カサウボン氏、欧州委員会委員 マリア・ガブリエル氏、米国科学技術政策局局長 ケルビン・ドログマイヤー氏、トヨタ自動車株式会社 代表取締役会長 内山田 竹志氏

SESSION

全員が安全でなければ誰も安全ではない

フォト:ヘンリー・マッキンネル氏

「新型コロナウイルスパンデミックにおける科学技術」【座長】ムーディーズ会長 ヘンリー・マッキンネル氏

世界で100万人以上の命を奪っているCOVID-19は、今回のフォーラムの大きなテーマとなった。「新型コロナウイルスパンデミックにおける科学技術」のセッションでは、一般市民に科学技術情報をどのように伝えるべきかが議論された。特に米国では政府による情報に不信感を募らせる市民が増加しており、COVID-19流行以前からマスクの着用やワクチン接種そのものを拒否するコミュニティーも存在している。


フォト:アンソニー・ファウチ氏

米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)所長 アンソニー・ファウチ氏

フォト:高 福氏

中国疾病預防控制中心(CCDC)主任 高 福氏

フォト:陳 建仁氏

台湾中央研究院ゲノム研究所 卓越研究員(前台湾副総統) 陳 建仁氏

フォト:山中 伸弥氏

京都大学iPS細胞研究所所長 山中 伸弥氏(2012年ノーベル生理学・医学賞受賞)

フォト:アルカジー・ドヴォルコビッチ氏

スコルコヴォ財団 理事長、元ロシア副首相 アルカジー・ドヴォルコビッチ氏

こうした状況に対し、同セッションで米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)のアンソニー・ファウチ所長は、「一般向けの情報発信では透明性が極めて重要だ。ワクチン開発であれば、その開発プロセスも開示すべきだ。完成前の段階から種をまいておくことも必要で、私たち自身、多様なコミュニティーにアウトリーチ(地域社会に直接足を運び啓蒙・奉仕活動などを実践)する活動を行っている。SNS(交流サイト)には誤情報が流布しがちだが、例えば有名ラッパーやコメディアンなどに正しい知識と情報を提供し、彼らがそれをSNS上にアップしてくれれば、何千万単位の人々にその情報は伝わる。市民に信頼してもらえる情報源が必要だ」と、信頼回復の方策を提示した。

では、科学者たちは今回の危機から何を学んだのか。「グローバルヘルス:新型コロナウイルス危機から得た教訓」では、今後に生かすべき教訓について議論した。

まず現状認識として、「ソーシャルディスタンスに疲弊」「インフォデミック(Information+ Epidemic)の増加」「政治による科学情報の歪曲」などの課題が指摘され、中国疾病預防控制中心(CCDC)主任の高福氏からは、「これから冬に入る北半球ではインフルエンザウイルスやアデノウイルスなどコロナ以外の呼吸器疾患も増加する」との懸念も示された。

これらの課題に対しては、「複数の疾患を同時に識別する検査キットは可能」「一般市民に正しい科学情報を伝える人材を大学で育成すべき」「科学者のグローバルな協力があれば真実はシェアできる」などの意見が相次いだ。このセッションに限らず、フォーラムでは「協力」「共創」「融合」といったキーワードが随所で飛び交い、サイエンスには国境など本来存在しないことも共通認識として示された。

「パンデミック感染症対応力の強化:科学技術の役割」では、COVID-19の教訓を元に、次のパンデミックにどう備えるべきかが議論された。参加者の共通認識は、「COVID-19に対し全ての国が失敗し、学び、改善しつつある」というものだった。

陳建仁・台湾中央研究院ゲノム研究所 卓越博士研究員(前台湾副総統)は、「どの国も単独ではパンデミックに対応できない。次のパンデミックに備えるためには多国間協力での透明性の高い情報共有が不可欠」と指摘した。

検査の改善点としては、「検査薬のバリデーション(科学的根拠や妥当性があるかの検証)基準の共有」や「検査のポートフォリオとサプライチェーンの構築」などが挙げられた。家庭でできる簡易式検査キットについては、「対応を急ぐあまり信頼性の低い診断薬を承認するのは避けるべき」との声もあった。

2012年ノーベル生理学・医学賞受賞者の山中伸弥・京都大学iPS細胞研究所所長も、「PCR検査で陰性でも陽転する可能性はある。検査は常にダブルチェックで行う必要がある。検査が万能でないことも啓もうすべきだ」と話した。山中氏はまた、「重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)、COVID-19 (SARS-CoV-2)は、全てコウモリ由来のウイルスだ。ウイルス学をグローバルに深掘りすることで、次のパンデミックを予想できる可能性もある」と話した。

「ポストコロナ社会の形成」は、「全員が安全でなければ誰も安全ではない」という国連人権高等弁務官のミチェル・バチェレ氏の言葉から始まった。クリーンな調理器具の不足のため肺疾患リスクが高いアフリカ諸国など、パンデミックに対する予防能力が脆弱な途上国の現状。遠隔医療に影響するデジタルインフラの地域間格差。COVID-19が基礎疾患扱いとなり保険加入を拒絶される可能性など、COVID-19が浮き彫りにした社会格差が改めて確認された。

スコルコヴォ財団理事長で元ロシア副首相のアルカジー・ドヴォルコビッチ氏は、「規制や法制化には時間がかかる。復興は社会の声を優先すべきものであり、格差是正のためにはローカル地域での解決策が求められる。そして、次のパンデミックに備えるためには、何よりも教育が重要だ」と次世代教育の大切さを強調した。

科学技術教育をテーマとしたセッションに参加した萩生田光一文部科学大臣も、「社会課題を解決するSTIの最大の鍵は人材だ。これからの時代を担う若手研究者の育成に力を注ぐべき」と強調した。

SESSION

気候変動や情報の
統治に高い関心

パンデミックとの戦いから得た知見も話題となった。「エネルギーと環境」で座長を務めた米国エネルギー省のクリス・フォール科学部長は、外出自粛で大気汚染が緩和されるなど環境面ではプラスの側面もあったことに触れたうえで「クリーンな世界を実現するためのヒントをどう生かしていくか考えてみたい」と話した。東芝の綱川智会長は「パンデミックでエネルギーの転換が進んでいる」と指摘。リチウムイオン電池の開発でノーベル化学賞を受賞した、米国ビンガムトン大学のM・スタンリー・ウィッティンガム卓越教授は、オーストラリアで世界最大のリチウムイオン蓄電池が稼働し住民に電力を供給できるようになっていることなどを挙げ「(政策面での)刺激策があれば、よりグリーンな世界にできる」と指摘し、環境問題に取り組むためにはさらなる刺激策が必要だという見解を示した。

情報のグローバルガバナンスに関するセッションで座長を務めた、インドのアシュワニ・クマール元法務大臣は、「現代の世界を形作っているのは情報の力といっても過言ではない」としたうえで、「(情報を扱う)科学は大きな利益をもたらすと同時に、害悪になることもある。法、倫理、哲学的な枠組みを考える必要がある」とまず指摘した。これに対し、米国クロスポイント・キャピタル・パートナーズのハーバート・ヒュー・トンプソン氏はネット広告表示を例に挙げ、「アルゴリズム上は正しくても、道徳的には正しくない表示がされることがある。分野を超えた(グローバルな)協力を必要とする」と述べた。また、ウィキメディア財団研究部長のレイラ・ズィア氏は、「情報で何をしようとするのかを先に考えてから情報を扱うべきだ。情報の利用範囲が広がれば広がるほど、ガバナンスの問題は大きくなる」と指摘した。

フォト:「エネルギーと環境」セッション登壇者

「エネルギーと環境」セッション
左から【座長】米国エネルギー省科学部長 クリス・フォール氏、世界気象機関(WMO) 名誉チーフサイエンティスト パベル・カバット氏、豪メルボルン大学名誉教授 ジム・フォーク氏、米国ビンガムトン大学 卓越教授 M. スタンリー・ウィッティンガム氏(2019年ノーベル化学賞受賞)、株式会社東芝 取締役会長 綱川 智氏、ITER(国際熱核融合実験炉)機構長 ベルナール・ビゴ氏、フューチャーアース シニアアドバイザー エイミー・ルアーズ氏、シェル シニアエコノミスト兼政策戦略部長 マリカ・イシュワラン氏、経済産業省 経済産業審議官 田中 繁広氏、インド ゴドレジ・インダストリーズ 社長 ナディール・ゴドレジ氏

フォト:「情報のグローバルガバナンス」セッション登壇者

「情報のグローバルガバナンス」セッション
左から【座長】インド元法務大臣 アシュワニ・クマール氏、スイス・イノベーション・エージェンシー(Innosuisse)理事長、クデルスキー・グループ 会長兼CEO アンドレ・クデルスキー氏、米国立標準技術研究所(NIST)所長 ウォルター G. コパン氏、米国PKFオコナー・デイビース 主任コンサルタント ルアン・バークレー-プラテンバーグ氏、慶應義塾大学名誉教授 村井 純氏、米国科学振興協会(AAAS) CEO スディップ・パリク氏、米国クロスポイント・キャピタル・パートナーズ ハーバート・ヒュー・トンプソン氏、米国ウィキメディア財団 研究部長 レイラ・ズィア氏

SESSION

産学など異分野の
連携求める声多く

ビジネスの観点からは気候変動と持続可能な社会に関する議論が展開された。「ビジネスにおける科学技術」のセッションでは座長を務めた日本貿易振興機構(JETRO)の佐々木伸彦理事長が「知識と英知を結集して気候変動に立ち向かいたい」と発言。ベルギーの化学メーカーソルベイのCEO(最高経営責任者)、イルハム・カドリ氏は「持続可能性はチャリティーではなく、顧客が求めていることを理解すべきだ」として、ビジネスのミッションとして進めることが地球を救うとの考え方を示した。仏エンジーのシャンカル・クリシュナムルティ副社長は課題解決のためには「組織同士がフェアに協力することが大切だ」と指摘し、東京大学の五神真総長はアカデミズムの立場から「社会的な意義が組み込まれた新しい経済のメカニズムを考えるのが大学の役目。産業界と一体となって大学の役割を存分に発揮したい」と述べた。

「AIと社会」のセッションでは、AIと共存する社会をどう作るかをめぐり議論が白熱した。オックスフォード大学仕事の未来プログラムディレクターのカール・ベネディクト・フレイ氏は今回のパンデミックで明らかになったように、景気が悪いときに人は技術変化に対してネガティブになるとし「AIのメリットを社会に訴えスムーズな変化を起こす必要がある」と指摘した。これに対し米国J.P.モルガンAIリサーチ部長のマヌエラ・ヴェローゾ氏は「AIにはリスクもあることを周知させ、どうAIを活用するのか説明できるようにしていくことが重要だ」と述べた。MILAケベックAI研究所科学ディレクターでモントリオール大学教授のヨシュア・ベンジオ氏は「AIの活用には知識の共有が不可欠だが、産業界では情報の共有が遅れていないか。パンデミックが明らかにしたとおり、我々にはあまり時間は無い」と分野を超えたさらなる連携の重要性を強調した。

フォト:「ビジネスにおける科学技術」セッション登壇者

「ビジネスにおける科学技術」セッション
左から【座長】日本貿易振興機構(JETRO)理事長 佐々木 伸彦氏、アルチェリッキ CEO ハカン・ブルグール氏、東京大学総長 五神 真氏、ソルベイCEO イルハム・カドリ氏、エンジー副社長 シャンカル・クリシュナムルティ氏、インテュイティブ財団 理事長 キャサリン・モーア氏、ウルトラパール・パルティシパソエス会長 ペドロ・ウォンチョウスキー氏、フィリップ・モリス・インターナショナルマネージメント戦略的科学的コミュニケーション担当バイスプレジデント モイラ・ギルクリスト氏

フォト:「AIと社会」セッション登壇者

「AIと社会」セッション
左から【座長】フランス国立科学研究センター(CNRS) 会長兼CEO アントワーヌ・プティ氏、MILAケベックAI研究所 科学ディレクター、モントリオール大学教授 ヨシュア・ベンジオ氏、オックスフォード大学 仕事の未来プログラム ディレクター カール・ベネディクト・フレイ氏、ドレスデン工科大学 情報サービス・高性能コンピューティングセンター長 ウォルフガング・E・ナーゲル氏、IBMリサーチ AI基盤部長 サスカ・モイシロビッチ氏、J.P.モルガン AIリサーチ部長 マヌエラ・ヴェローゾ氏、エレメントAI 創設者兼CEO ジャン-フランソワ・ガニエ氏、ミュンヘン工科大学(TUM) ロボット工学機械知能学部長 サミ・ハダディン氏、株式会社東芝 執行役上席常務 最高デジタル責任者 島田 太郎氏

CLOSING & STATEMENT

声明・主なポイント

フォト:マルシア・マクナット 氏氏

「閉会式」【座長】米国科学アカデミー会長 マルシア・マクナット氏

●COVID-19パンデミックは全世界に危機と混乱をもたらすとともに地域間格差を浮き彫りにした。復興の経済刺激策では「グリーンリカバリー(環境投資による復興)」が求められる。

●水素エネルギーや蓄電池、二酸化炭素回収・再利用など、温暖化ガス低排出エネルギー源の高度な技術化に向けた投資が必要。気候変動のストレスにさらされている人々のために、食糧と栄養の安全を確保するための精密農業の開発も重要だ。

●複雑な社会課題を解決するためには技術のイノベーションだけでは不十分であり、AIの開発段階も含め、人間科学や社会科学との適切な統合と教育システムの変革が求められる。

●関係者全ての意思決定への参加など、包括性を備えたダイバーシティをさらに推進することが、科学技術の影をコントロールする上でも有益になる。

STSフォーラムの第18回年次総会を2021年10月2〜5日、京都でオンライン開催する。

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